May 30, 2016

伊藤野枝伝

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝:栗原康・著
このセンセーショナルで挑発的なタイトルは伊藤野枝が地元・今宿村で起きた出来事を素材にして書いた二つの小説・「白痴の母」と「火つけ彦七」から引用されたものであろう。(著者と鈴木邦男との刊行記念 トークセッションによれば、もう少し地味なタイトルを含めた幾つかの候補の中から、最終的に営業サイドが「これで行こう」と決定したそうである。ともすれば批判を恐れ自粛してしまうメディアの多い中、岩波の営業もやるじゃない!)
そうした傾向は文体にも表れている。著者によればPC入力した原稿を自ら音読して推敲するそうだ。仮名が多いのも自分自身で読みやすくするためとか…成程、それで合点できた。嘗て昭和軽薄体があったけれど、音読を前提に書かれたこの文体は「平成ナレーション体」と呼べば良いのだろうか。本書をドキュメンタリー番組に見立てると、ナレーターは加賀美アナや桜井アナではなく、ジョン・カビラに決まりだろう。アジテーションやエールもいいんです。
尤も著者の栗原康も初めからこの様な文体ではなく、研究論文のような文体で書いていたらしい。些か挑発的なアジテーションも含むこの文体を受入れられるか否かで読者の評価は大きく異なるようだ、好意的な書評が多い処からみても、自己責任と自主規制でがんじがらめの閉塞的な現代社会に伊藤野枝の様な人物が求められていることの表れかもしれない。

内容
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はじめに
あの淫乱女! 淫乱女!/野枝のたたりじゃあ!/もはやジェンダーはない,あるのはセックスそれだけだ

第一章 貧乏に徹し,わがままに生きろ
お父さんは,はたらきません/わたしは読書が好きだ/わたしはけっしてあたまをさげない/きょうから,わたし東京のひとになる

第二章 夜逃げの哲学
西洋乞食,あらわれる/わたし,海賊になる/ど根性でセックスだ/だれかたすけてください,たすけてください/恋愛は不純じゃない,結婚のほうが不純なんだ/究極の夜逃げ

第三章 ひとのセックスを笑うな
青鞜社の庭にウンコをばら撒く/レッド・エマ/野枝の料理はまずくて汚い?/もっと本気で,もっと死ぬ気で,ハチャメチャなことをかいて,かいてかきまくれ/(一)貞操論争/(二)堕胎論争/(三)廃娼論争/大杉栄,野枝にホレる/急転直下,自分で自分の心がわからぬ!/約束なんてまもれない,結婚も自由恋愛もしったことか/カネがなければもらえばいい,あきらめるな!/オバケのはなし――葉山日蔭茶屋事件/吹けよあれよ,風よあらしよ

第四章 ひとつになっても,ひとつになれないよ
マツタケをください/すごい,すごい,オレすごい/亀戸の新生活――ようこそ,わが家へ/イヤなものはイヤなのだ/あなたは一国の為政者でも私よりは弱い/主婦たちがマジで生を拡充している/魔子は,ママのことなんてわすれてしまいました/結婚制度とは,奴隷制のことである/ひとつになっても,ひとつになれないよ/友情とは中心のない機械である――そろそろ,人間をやめてミシンになるときがきたようだ/家庭を,人間をストライキしてやるんだ――この腐った社会に,怒りの火の玉をなげつけろ!

第五章 無政府は事実だ
野枝,大暴れ/どうせ希望がないならば,なんでも好き勝手にやってやる/絞首台にのぼらされても,かまうものか!/失業労働者よ,団結せよ/無政府は事実だ――非国民,上等! 失業,よし!/村に火をつけ,白痴になれ/わたしも日本を去り,大杉を追っていきます/国家の犬どもに殺される/友だちは非国民――国家の害毒は,もうバラまかれている

あとがき
いざとなったら,太陽を喰らえ/はじめに行為ありき,やっちまいな
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本書と併せて辻潤の「ふれもすく」を読みのも良いだろう。関東大震災の後、出版社から「野枝さんの思い出」を書いてくれないかと依頼され、惨殺された伊藤野枝の最初の夫である辻潤が書いたものである。
辻潤と伊藤野枝との間に生れた長男・辻一(まこと)が私の父と同い年なので、其処からも時代背景を読み取ると視界が広がるようだ。つまり伊藤野枝や辻潤、大杉栄は私の祖父母の世代にあたる。そう考えると、自分から見てそれほど大昔のことでもない
まことくん(辻潤は長男をそう呼んでいる)が関東大震災に遭遇したのは10歳の時、震災の起こる前に伊藤野枝は大杉栄と二人で辻潤の留守宅を訪れ、まことくんにと大杉栄が翻訳したばかりの「ファーブル昆虫記」を持ってきている。奇しくもそれが伊藤野枝の最後の形見になった。辻まことの『虫類図譜〈全〉 (ちくま文庫)』を読むと二人の遺伝子が…確実に伝えられているようである。

因みに「刊行記念 トークセッション」で「伊藤野枝伝」を映画化するとしたらヒロインは誰が良いですかの質問に、栗原康はこう答えていた。『伊藤野枝は広瀬すず、大杉栄はTOKIOの長瀬くんで、辻潤は僕がやります。』と….


岩波書店:村に火をつけ,白痴になれ  伊藤野枝伝(PDFの試し読み有り)

東洋経済オンライン:「あの淫乱女!」伊藤野枝の破天荒すぎる28年
東京新聞:村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝

YouTube:『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(岩波書店)刊行記念 トークセッション【前半】
YouTube:『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(岩波書店)刊行記念 トークセッション【後半】

Posted by S.Igarashi at 11:16 AM

May 29, 2016

うなこちゃん

東京新聞・埼玉版(5/28)に『うなこちゃん どこに? さいたま・別所沼公園で捜索』の記事が…普段はネットでTOKYO Webを見ても埼玉版まで手を伸ばすことはないのだが、昨日は何故かこの記事を開いていた。そういえば二年前の7月13日、別所沼の風信子荘で皆と待合せて、其処から埼玉県立近代美術館で開催していた展覧会『戦後日本住宅伝説ー挑発する家・内省する家』を見に、ブラブラと歩いていったことがあった。その時、別所沼公園で「うなこちゃん」を写真に撮っていたのだ。
と云うことで「うなこちゃん」と「やなせたかしさん」からの捜査協力のお願いかも知れないので、新聞記事にはない「うなこちゃん」の写真をアップ。

Posted by S.Igarashi at 10:56 AM

May 26, 2016

増税

と云うことで平成14年の6月に登録した私の車は「環境負荷が大きい」と云う詭弁により、またまた増税されてしまった。う〜ん、法人税逃れをしている自動車メーカーは保護され…モノを大事に長持ちさせると、税金をふんだくられる。首相によれば税金はビンボーな国民から吸い上げるもののようです。
January 09, 2004:「さぁ捨てな古」な社会

Posted by S.Igarashi at 09:24 AM

May 19, 2016

タイムリーな除籍

大学図書館入口・階段ロビーの段ボール箱に「ご自由に御持ち下さい」と無造作に捨て置かれた除籍本の数々、その中にタイムリーな除籍本が一冊混ざっていた。
蜷川幸雄がテレビの俳優から遠ざかり舞台演出家として活動し始めたのを知ったのは1970年頃の美術手帖だった。その頃、美術手帖では磯崎新が「建築の解体」を連載し始め、また植草甚一がJazzのレコード評を受け持っていたりで、読みごたえのある雑誌だった。
そんな美術手帖の演劇特集か何かで期待される演出家の一人として取り上げたのが蜷川幸雄だった。記憶に残ったのはテレビドラマ等の脇役(悪役)で顔を知っていたからだろう。
頁に目を通すと「蜷川幸雄伝説」は演出家個人の伝説だけでなく、彼が生きた時代の記録でもある。新宿でん八物語と合わせて読むと、1970年代の新宿三丁目界隈にもタイムスリップもできるのだ。

Posted by S.Igarashi at 10:10 AM

May 10, 2016

160分待ち...

混んでいるとは聞いていたが…午前中の授業が終わってから…駆けつけたが...160分待ちとは…諦めて…上野公園から去る。
まぁ、今回の展覧会は期間も短く、各メディアも競って宣伝していたから…むべなるかな。11年前の静岡県立美術館での展覧会は...ゆっくり見られたのであるが…残念。

Posted by S.Igarashi at 09:55 PM | コメント (2)

May 08, 2016

盲導犬アンドリューの一日

今日の東京新聞朝刊の上に置いてあるこの『盲導犬アンドリューの一日』は11年前の2005年2月28日に開かれた出版のユニバーサルデザインフォーラムでゲストスピーカーとして盲導犬アンドリューを伴って講演した松井進氏の絵本を会場で購入したものです。と云うことで、この絵本の17頁を紹介したいと思います。松井進氏の体験をアンドリューの目を通して語ったものです。

ひるやすみになると、ぼくはトイレにいく。
ご主人は、ぼくのワン・ツーをきれいにそうじして、
おひるごはんをたべにゆく
ここで、ほんとうにこまってしまうことがある。
「犬をお店のなかにいれないでください」と、
ことわられることがあるからだ。
ご主人が「この犬は盲導犬で、保健所などからもお店にはいっていいといわれている」と
いくらせつめいしても、だめなときがあるんだ。
よわっちゃうよね。
お店にはいったら、ぼくはあいている席をさがす。
ご主人がたべているあいだ、テーブルの下にダウンして、じっとまつ。
おいしそうなにおいがしても、ガマンガマン。
食事のあと、銀行やゆうびんきょくにいくこともあるんだよ。

テレビの動物番組でも、盲導犬への理解を深めてもらうために、誕生からリタイアまで様々な切口で紹介してますが…無理解な社会にはなんだか、よわっちゃうよね。

Posted by S.Igarashi at 04:23 PM

May 03, 2016

2016 憲法記念日

生れて初めて憲法9条の存在を意識したのは7歳の頃であった。選挙権を得てからはこの憲法を守ることを最優先に投票権を行使している。考えてみると、この頃から危機感があった。戦争体験はないが焼跡のバラックで生れ、庭には3月10日の空襲で焼け残ったタイル貼りの風呂場もあったり、身近に戦争の悲惨さを伝えるものが未だ残っていた。
「軍隊を持たない国・コスタリカ」

「憲法」をキーワードに過去のエントリーをリストアップしてみた。

October 08, 2015:いまここに在ることの恥
August 31, 2015:2015年8月30日
May 04, 2015:元米海兵隊員 アレン・ネルソン
July 02, 2014:日本国憲法 第十章 最高法規
December 07, 2013:Free Free Free Nelson Mandela
December 06, 2013:12.05 国会正門前
May 30, 2013:歩兵第3連隊・跡地
May 03, 2013:日米地位協定入門
January 01, 2013:謹賀新年
June 30, 2012:「主権者」は誰か
May 04, 2011:哀しい...憲法記念日
August 30, 2009:Change 1909〜2009
August 29, 2009:国民審査
August 01, 2009:売国者たちの末路
February 15, 2009:Che...「他者の痛みを感じられるか」
December 17, 2008:i文庫
September 13, 2007:官邸崩壊
May 03, 2007:日本国憲法
August 16, 2006:8月15日と南原繁を語る会
May 19, 2006:転載・"WORLD PEACE NOW"
May 13, 2006:エドワード・サイード OUT OF PLACE
April 27, 2006:別件逮捕と共謀罪
March 20, 2006:戦争と建築家
November 19, 2005:モラル崩壊
November 12, 2005:憲法25条と建築基準法
October 15, 2005:21世紀の治安維持法か
September 17, 2005:裏表構造改革
September 06, 2005:問われるメディアリテラシー
August 12, 2005:憲法九条
June 23, 2005:靖国問題
June 06, 2005:冤罪を生むもの
January 27, 2005:アメリカが死んだ日
August 25, 2004:超監視社会
July 28, 2004:2大政党制
June 14, 2004:乱用される土地収用・病める米国

Posted by S.Igarashi at 01:38 PM | コメント (0)

May 02, 2016

鯉の遡上...

四谷大木戸より十二里も離れると『江戸っ子は五月の鯉の吹流し』の喩えも...空々しく聴こえますが…ここ南浅川にも鯉が遡上…しているようです。

五月最初の日曜日、上流では水遊びする親子も...川べりにイタドリが群生しています。

Posted by S.Igarashi at 10:00 AM

May 01, 2016

平林達也写真展 霊気満山~高尾山~

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高尾駅北口・甲州街道に面したgoto.Room18%で開催中の平林達也写真展 霊気満山~高尾山~を散歩がてら見て来た。デジタル写真全盛期の今日、展示されている作品は全てモノクロ銀塩写真の手焼き。残る会期は今日と来週末の二日間のみ。
こちらのサイトからも作品の一部が見られます。東京画・「高尾山 霊気満山」

Posted by S.Igarashi at 11:35 AM | コメント (0)