大阪アースダイバー:中沢新一
二年前に刊行された本書の奥付を見ると四刷りとなっている。たぶん山里にある書店の店頭に並んでから買ったものだろう。それから二年余り…積読状態になっていたが、読もうと思う切っ掛けは釜ヶ崎の位置関係をGoogleMapで調べていて、そうだ「大阪アースダイバー」を買ってあったと気づいたのである。考えてみると僕たち東京の子供は公立中学ならば修学旅行は関西方面に行くのが定番であった。それでも行き先は奈良・京都であり、大阪はスルーされ目的地に入っていない。関西を代表する都会であるにも関わらずである。飛鳥の古には難波宮が置かれ、仁徳天皇陵も四天王寺があっても修学旅行の候補には選ばれない。関西からの修学旅行生は東京に来るのに、関東からの修学旅行生は大阪をスルーする、何故だろう。ざっと読み終えてから、そんな疑問への答えが本書に見え隠れしているように思える。
例によって飛躍文化人類学的妄想力も全開であるが、週刊現代に連載されていたこともあり、取材も丹念に行われているようだ。東京人には解らない大阪の謎や不思議の入口前に多少は近付いたかも知れない。ブラタモリも四月から再開するようなので上町台地に迫る企画があるかも…と期待しているのだが...。
古地図と地理院地図の色別標高図で「河内」の位置や地形とかが…解った次第であります。
内容
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プロローグ
大阪アースダイビングマップ
第一部 プロト大阪
・大阪を読み解く鍵を求めて
「くらげなす」土砂層の上に/大阪の見えない座標軸/二つの軸/南北に走るアポロン軸/
東西に走るディオニソス軸/河内カオスモス/西の王家の谷 -- 百舌鳥古墳群/
大阪文化の野生のルーツ/複素数都市
・太陽と墳墓
ディオニソス軸線の発見者は誰か/「スミヨシ」系の海民/渡来民たちの波/
日の御子の誕生/大阪の大地の歌/太陽の子の死と再生
・四天王寺物語
軍事と呪術の物部氏/玉造の怪/比類なく高い仏塔/キツツキと鷹の戦い/
大阪スピリットの古層/聖徳太子と俊徳丸
第二部 ナニワの生成
・砂州に育つ資本主義
商人と無縁の原理/水底から出現した島々/八十島のナニワ/ナルニワ国の物語
アジールとしての砂州/淀川河口はクグツのすみか/はじまりの商人/
商人は無縁から生れた/豊かな無縁社会/無縁社会を超える
・超縁社会
ナニワのミトコンドリア戦略/負けるが勝ちや/有縁、無縁、超縁/
トーテム紋章としての暖簾/座という秘密結社/お金と信用/
信用とプロテスタント/信仰としての信用
・船場人間学
船場の性と愛/野生のぼんち/番頭はんと丁稚どん/
暗黙知はからだに叩き込む/幸之助と船場道場/蘇れ、ナニワ資本主義
第三部 ミナミ浮上
・日、没するところ
西方の意味/広大なネクロポリス/封印された笑いの芸能/聖なる墓守
埋葬儀礼のまわり/聖から芸人へ
・千日前法善寺の神
処刑場から見せ物へ/聖なるミナミ/地上からちょっとだけ離れて/
自転車とパノラマ館/萬歳から漫才へ/民主的な南方からの神々/エビスの記憶/
不条理の萬歳/シャーマン吉本せいの選択/来るべき漫才
・すばらしい新世界
モダニズムの夢/新世界の精神分析/湿った通天閣/
タイシとビリケン/ミナミの胎蔵界曼荼羅/荒陵に咲く花/
・ディープな大阪
最後の庇護の場所/見えない空間/「あいりん地区」の形成史/鳶田から釜ヶ崎へ/
世界と運命の転換期/エリアクリアランス/人類型都市構造/ミナミの栄誉/
ジャンジャン横町のデュシャンたち/アンフラマンスなミナミ/
第四部 アースダイバー問題集
・土と墓場とラブホテル
崖地と粘土/あわいの人形/マテリアリストにしてアニミスト/恋のマテリアリズム/
ホテルはリバーサイド/自由恋愛のメッカ/ラブホテルとディズニーランドの深層/
ラブホと野生の思考/
・カマドと市場
敵が味方に変わるころ/転換の門/海に直結した魚市場/市場とスーパー/
・大阪の地主神
生玉神社と坐摩神社/イカスリの神/ツゲ一族の娘たち/渡辺一族の登場/
水軍武士団へ/南渡辺村と北渡辺村/区別と階層差/さまよえる北渡辺村/
くり返される強制移住/大阪の村/解放運動/「同和」の未来/
・女神の原像
「太陽の妻」/太陽と性/不思議な神話の記憶/コリア世界との距離/
・コリア世界の古層と中層
生野区と平野区を掘る/猪飼野の謎/伽那の人々の日本への移住/
ものづくり大阪の土台/帝国主義の時代/壁とその解体/
●Appendix【付録】 河内・堺・岸和田 - 大阪の外縁
・河内
先住民の夏至祭/死霊を渦の中に巻き込んで/古層の息づかい
・北河内
宇宙船イワフネ号/河内の野生の根源地
・堺と平野
環濠都市の精神は生きている/ガラパゴス型都市/堺と平野--偉大なる例外者
都市の戦い
・捕鯨とだんじり---岸和田
海民の夢の時間/だんじりの運動学/だんじり - 捕鯨論
・エピローグにかえて
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考えてみると、大阪に行ったのは片手で数える程である。最初は1970年の大阪万博…会場ゲート前まで行ったものの、見る気を失い踵を返して帰ってきた。二度目は…千里と泉北のニュータウンの見学…。三度目は高野山へ行く為に難波から南海高野線を利用した時、帰り難波駅周辺で夕食をとったが、宿は京都市内であった。ディープな大阪の地に降り立ったのはこの時だけである。何れも1970年代の事であった。
参照サイト
アースダイバーでわかった、大阪のこと・地図上でアースダイビング2012年03月26日
戦後史証言プロジェクト・第4回 猪飼野 在日コリアンの軌跡
1999年までは1月15日は成人の日で尚且つお年玉付年賀ハガキの抽選日だったのだが、ハッピーマンデーの導入とやらで1月の第2月曜日が成人の日で、お年玉付年賀ハガキの抽選日は第3日曜日のようだ。
先日の専門学校の出講日、成人式に出席する為、連休に帰郷していた学生から晴れ着姿の写真を見せてもらった。なんでもお母さんが成人式の時に作った晴れ着だそうだ。お母さんの歳を尋ねると42歳とか….とても、お祖母さんの歳を尋ねる勇気はなかった。思い起こしてみると、成人式に晴れ着を着るのは我々の世代くらいの女子からだろうか…一回り上の世代で集団就職で上京してきた人達は...晴れ着まで手が回らなかっただろう。我々の世代でもお母さんの晴れ着を着るというのは皆無…戦争で焼け出されて全てを失ったり、戦中戦後で晴れ着どころではなかった世代だ。考えてみると...お母さんの晴れ着を娘の成人式に着られるのは、それだけ平和な時代が続いていることなのだとつくづく思った
因みに私は45年前の成人式は欠席しました。例年、市会議員のつまらない話と引き出物に煙草を吸って税金を落とせばかりに灰皿とかライターが出るらしい…と云うことを聞いていたからです。喫煙の為の品が引き出物なんて...今では考えられないことです。
昨年は雑誌「ガロ」創刊50年と云うこともあり、東京人7月号や、Eテレのニッポン戦後サブカルチャー史等々、多くのメディアでも雑誌「ガロ」の再評価が行なわれた。そんな時、その後の雑誌「ガロ」の情報を調べようと青林堂のサイトを訪れて愕然とした憶えがある。その印象を古山くんの出放題:あの頃への旅へのコメントに『ガロは発行人の長井氏が亡くなった後、分裂して、編集側は新たに青林工藝舎を立ち上げ、長井氏の意志を継続して若手作家に発表の場を提供しているが…一方の青林堂は…嫌韓・嫌中に指向している書籍を出しているのが…180度方向転換したようで…なんとも…』と書き記していた。
そして、今朝の東京新聞のコラムである。内容はここ最近、ツィッターでも取り上げられている情報だが、それを検証すべく当事者双方に取材を試みているが、都合の悪いメディアには取材に応じないと決めているようである。ネットでも嫌韓を煽るバナー広告が目立つのが…何だかである。
書店の店頭でも平積みにされた嫌韓嫌中本が目立つが、東京新聞のコラムの最後に「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」代表の意見が寄せられていたのでネット検索したなぜ僕らは『ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会』を立ち上げたのか?なる記事があったので参考までに。
と云うことで長井氏の意志を継承しているのはこちら「青林工藝舎」である。
21世紀の資本
私は読んでいませんが、こうした雑誌の表紙になるほどトマ・ピケティの『21世紀の資本』が話題です。昨年12月に待望の翻訳版がみすず書房から刊行されましたが定価5,940円(本体5,500円)と云う価格にも関わらず、初版は品切れで重版中だそうです。さてさて、不平等に見て見ぬふりをし、放ったらかしにする格差社会を是正する処方箋はどうなっておるのか...取り敢えず、明日(1/9)から、Eテレで6週に亘って『パリ白熱教室』が放送されるので、忘れないように、先ずは要チェック…。
TED:トマ・ピケティ: 21世紀の資本論についての新たな考察(日本語字幕付)
関連:資本主義末期の国民国家のかたち(1)内田樹