水の都市 江戸・東京
陣内 秀信+法政大学陣内研究室 編
講談社・刊
「江戸・東京」学の真打登場である。前作の三浦展氏とのコラボレーション企画「中央線がなかったら 見えてくる東京の古層」が江戸・東京の西半分の武蔵野台地に重点を置いているとすれば、水の都市のタイトル通り本書は江戸・東京の東半分に重点が置かれていて西半分の「郊外・田園」は頁数全体の二割程度である。講談社の内容紹介によると『都心や下町の川・壕・運河がめぐる「水の都」、ローマと同じ7つの丘からなる「田園都市」山の手、漁師町・産業基地・リゾート空間が重層する東京湾、武蔵野・多摩の湧水・用水が織りなす「水の郷」と、世界に類を見ない多種多様な水辺空間をもつ東京。水都学を提唱する斯界の第一人者が、30数年におよぶフィールドワークを集大成。』とある。水との関わりを通し生活者の視点から江戸・東京の歴史と現在を展望している本である。
建築家・槇文彦氏が著書「漂うモダニズム」で『...現代は極めてエキサイティングな時代なのだ。ここでも新しい建築評論のあり方が問われているのだ。大海原には多様な価値軸、時間軸が浮遊している。比較文化人類学者のまなざしが求められているのかもしれない。』と結んでいる。
陣内氏の提唱している空間人類学は地道なフィールドワークを通した建築サイドからの試みの一つであろう。都市や建築の空間の豊かさはこうした地道な積み重ねの中からしか生れないだろう。
目次
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序章「水の都市」 東京の読み方、歩き方
第1章 都心部
・江戸城と内濠・外濠
〈東京の地形はどのようにしてできたか?〉
・隅田川
・日本橋川
・神田川
〈柳橋と川文化〉
〈川沿いに魅せられた市民ランナーたち〉
第2章 江東・墨田
・北十間川
・小名木川
・横十間川
・旧中川
・仙台堀川
・大横川
第3章 港南臨海部
・東京湾
・佃
・品川
・羽田
〈お台場は日本でも有数の観光地になった〉
第四章 郊外・田園
・玉川上水
・目黒川
・善福寺川
〈武蔵野三大湧水池のひとつ善福寺池〉
〈多摩川の漁業協同組合の活動〉
・野川
〈「お鷹の道」と「史跡の駅、おたカフェ」〉
〈野川の再生活動〜水辺の空間を市民の手に〜〉
・多摩川
・府中
・日野
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追記:第1章のコラム〈東京の地形はどのようにしてできたか?〉では縄文海進期の海水位を7〜8mと定説通り、飛躍文化人類学読本「アースダイバー」の様に縄文海進期と下末吉海進期をごちゃまぜにするような愚は犯してない。(参考:東京の凸凹地図)
余談:そういえば、20年以上前、JIA主催のエクスカーションで隅田川を川下りしたとき、船上で古山クンが近くに居た陣内氏に佃の住吉神社の神輿は今でも海に入るのかどうか質問していたと記憶している。因みにその答えは...本書159頁に記されている。