写らなかった戦後 「ヒロシマの嘘」
福島菊次郎・著
90歳になる報道写真家に迫ったドキュメンタリー映画・『ニッポンの嘘』のシナリオの底本となった本だが、これも著者が82歳の時の書き下ろしだ。この「写らなかった戦後」はシリーズ化され、2005年に『写らなかった戦後 2「菊次郎の海 」』が、そして2010年に『写らなかった戦後3「殺すな、殺されるな」 福島菊次郎遺言集』が出版された。そして、その半年後の3.11にメルトダウンが起こり、再び、彼を報道の現場へと向かわせた。
戦後、地方都市で時計屋を営み趣味で写真を撮っていた市井の一個人が42歳にて報道写真家へと変身し、62歳で此の国の有り様に絶望し瀬戸内海の無人島に移り棲む...自身も癌に侵され満身創痍の身ながら、再び...カメラをペンに持ち替えて...此の国の欺瞞と矛盾に満ちた有り様を告発する。このエネルギーは何処から出てくるのだろうか。『見て見ぬフリをすることは主権の放棄へと繋がり、為政者を暴走させる。』...と彼は言う。全く以てそのとおりだ。
孫崎享が自身のツイッターで自署である「戦後史の正体」について肯定的評価を堂々と述べる人に共通している事は「覚悟を決めて生きている人」だと言っているが、福島菊次郎も「覚悟を決めて生きている人」だろう。孫崎享の「戦後史の正体」が米国からの圧力を軸に読み解いたモノならば、福島菊次郎の「写らなかった戦後」は国家から見捨てられた人々に寄り添い、底辺から読み解いた菊次郎による「戦後史の正体」だろう。当然ながら其処に「米国からの圧力」も透けて見えることは言うまでもない。
目次
--------------------------------------------------------------------------------------
240秒しか写さなかったヒロシマ---まえがきに代えて
鵯 ピカドン、ある被爆家庭の崩壊二〇年の記録
鵺 原爆に奪われた青春
ブラジルから来た被爆者、島原邦子さんの死
原爆乙女の怒り「私には強姦してくれる男もいないの」
広島妻の訴え--原爆孤児・野沢靖子さん(仮名)の青春
鶚 四人の小頭症と被曝二世・昭男ちゃんの死
マーちゃんとミーちゃんとチーちゃん
百合子ちゃん
原爆医療の谷間で殺された被曝二世・昭男ちゃん
鶤 被爆二世たちの闘い
親父を哀れな被爆者のまま死なせたくない--徳原兄弟の反逆
被爆二世医師と内蔵逆位の青年たちが支えた病院
鶩 広島取材四〇年
炎と瓦礫の街で
虚構の平和都市誕生
被爆者はそれでも生きていた、三〇人の証言
天皇、慰霊碑「お立ち寄り」
原爆スラム、その差別の構造
ヒロシマの黒い霧、ABCCは何をしたか
四〇万人の葬列
重藤原爆病院長の苦悩
鶲 広島西部第一〇部隊、僕の二等兵物語
鷄 僕と天皇裕仁
軍国主義教育….狂気の青年時代
敗戦と天皇の戦争責任
同級生の南京大虐殺
福島二等兵の反乱
満身創痍の玉砕
鷁 原爆と原発
鶻 カメラは歴史の証言者になれるか
あとがき
--------------------------------------------------------------------------------------