March 20, 2018

巴水と圓生

大正末期、六代目三遊亭圓生(1900〜1979)が三遊亭圓窓から橘家圓蔵を襲名した時分だから25歳位だろう、その頃から始められた落語勉強会「橘会」を後援する会員の一人に、圓生より七歳年上の川瀬巴水(1883〜1957)がいて、何かと支援を受けられていたと云う話しが圓生の「浮世に言い忘れたこと (小学館文庫)」「寄席こしかた/あたくしの勉強会 」に書かれていた。そんなエピソードを知ると巴水の「東京二十景 芝増上寺」 1925年(大正14年)を描いていた頃、同じ芝の三光亭で行なわれていた落語勉強会「橘会」にも巴水は顔を出していたことだろう、芝露月町(現・新橋五丁目)生れの巴水にとって芝増上寺界隈は日常の風景そのものであったことだろう。そう考えると何となく巴水の版画を見る目にも奥行きがでてくる。
どうやら、三遊亭一門は若手育成のため自ら席亭を設ける傾向があるようだ、尤も金儲けを第一優先としない席亭の運営は順調とは云えず、芝の三光亭も青山に移転したり、流浪の日々の末、消滅したようである。圓生の弟子の円楽も自分の席亭「若竹」を潰したり、好楽も「池之端しのぶ亭」を設けたりするのも...一門に伝わる遺伝子かも...。

川瀬巴水は東海道に面した芝露月町の生れ、成人した後、芝愛宕下町で所帯を持つ、大正15年に大森新井宿美奈見に転居。大阪生まれの圓生は義父となった先代圓生の住む芝佐久間町で少年から青年時代を過ごした様である。芝の三光亭は先代圓生の住いを兼ねた席亭であった様だが、震災で火災にあい焼跡に住い兼席亭のバラックを建て、其処で落語勉強会を行っていたが、其処も震災後の区画整理で立ち退きざるを得なくなったと云うことだ。

川瀬巴水が圓生を伴い鮫洲の伊東深水の家に行ったというエピソードも書かれているが、巴水がが大森に転居する前か、後かは不明だが...文化人と云われる人達が大森界隈に住み始めたのは震災後なのだろう。巴水が日本各地や朝鮮に旅をして歩き回ったのも、日本橋を起点とした東海道に面した新橋で生まれ育ったことも、大きな要因かも...。

と云うことで、この本は探していた本がなくて、なんとなく買ってしまった二冊の文庫本の一冊である。
落語が日常生活の娯楽の一翼を担っていた時代の下町の端っこで生れ、物心が付いた頃には母親に連れられ新橋演舞場や明治座に御供している所為か、落語、講談、浪曲、新派の口調等が、身体感覚に刷り込まれている様だ。昔、後輩が「古典落語の本を読んでも面白くもなんともない。」と抜かしていたのを聞いて。可哀相に彼には紙に書かれた落語の行間から落語家の声が聴こえないのだろう、と気の毒に思い、言わせるままにして放っておいた。音楽家がスコアを見ただけで頭の中で音楽が鳴り響くよう、古典落語の文庫でも読み始めると贔屓の落語家による独演会が頭の中で聴こえてくる。それも、かろうじて名人を生で聴くことが出来た最後の世代の特権かも知れない。

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「浮世に言い忘れたこと」 目次

【人情浮世床】      
  乞食になっても / わが身に合った工夫を / お銭をいただくからには / 理屈ではわかっていても 
  箱に入るな / 芸に終わりなし / 気転をはたらかせること / 高座はこわい / 骨をおぼえろ
  逆境のときこそチャンス / 他芸を習え / 落語と歌舞伎 / 遺 産 / お色気のはなし

【寄席こしかた】
  寄席の今昔 / 落語の歴史 / 落語の将来 / 時代の波 / 江戸の春 / 噺家の正月 / 年中貧乏
  初いびき / 噺家珍芸会 / あたくしの勉強会 / 夏の雑音 / 忘れられない正月 

【風狂の芸人たち】
  奇人・圓盛のこと / 名人・圓喬のこと / 一柳斎柳一のこと / 名人・神田伯山のこと
  一龍斎貞山のこと / 立花家橘之助のこと / 玉乗り遊六のこと / しゃべり殺された潮花
   金語楼のこと/志ん生のこと

【本物の味】
  一年の計 / 今の世の中 / 社会屋 / 我 慢 / 夏負け /敬 語 / 手 紙 / ああ、名医なし
  本を読むとき / 着物と着こなし / らしいなり / あたくしの朝食 / あたくしのぜいたく
  知らない料理 / うまいもの / 郷土恋味 / そ ば / ふ ぐ / くさや / さんま
あたくしの酔いかた / 煙草のけむり

【解説】 自分をこしらえる本  童門 冬二
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Posted by S.Igarashi at March 20, 2018 12:15 PM
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