クルディスタンを訪ねて―トルコに暮らす国なき民
写真・文 松浦範子/新泉社/2,415円
イラク戦争に関連して耳にするようになった感のあるクルド人やクルディスタンであるが、彼らについても、彼らの多くが住んでいるトルコについてさえも、僕たちはそう多くの事を知っている訳でもない。
『通りにいる人たちを信用しないことよ。そして装甲車にも乗らないようにね。』取材の後で別れ際、著者にそうジョークを言ったのは1989年に凶弾に倒れたクルド人活動家の妻・ヘレンである...。(2007年12月パリにて、続編『クルド人のまち --イランに暮らす国なき民』より)
1996年夏、友人と二人でトルコを訪れた著者はアルメニアとイランの国境に近いドウバヤズットのまちに立っていた。旅の目的は『絨毯織りの女を取材して本にしよう。』その一歩となる筈であった旅はドウバヤズットで起きた『エピソード-1』によって著者のそれからを大きく変えることになったのだ。
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プロローグ
はじめてのクルド人のまち―ドウバヤズット(Dogubayazit)
鵯行き先は「クルド」
行き着いたまち―メルシン(Mersin)
ネプロスの炎―ディヤルバクル(Diyarbakır)
摘まれ続けてきた芽―アンカラ(Ankara)
引き寄せられた場所―非常事態令下のまち
「最悪」と呼ばれるまちを離れて―メルシン
鵺時をかけて
クルド人であること、トルコ国民であること―イスタンブール(İstanbul)
素顔のクルディスタン―ドウバヤズット
はた迷惑な訪問者―軍の検問
鶚彼らの居場所
国境線の向こうへ―ハッサケ(Al-Hasakah)
水に沈む遺跡と生き残った村―パトマン周辺(Batman)、(Hasankeyf)
アレヴィー教徒のまち―トゥンジェリ(Tunceli)、ピュトゥルゲ(Puturge )
何が正しくて何が間違いなのか―ハッカリ(Hakkâri)
鶤私のなかのクルディスタン
みちのり―バスの車中
皆既日食―ジズレ(Cizre)37°19'32.24"N 42°11'18.23"E
愛しい人々―シュルナック(Sirnak)
罪悪感と試練―イスタンブール
あとがき
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目次で紹介されている場所をGoogleMapに配置してみた。さてトルコの首都は何処でしょう?
今年、1月26日、神楽坂のキイトス茶房で『松浦さんを囲み、岩城さんを取り巻く会』が開かれた。其処へ向かう京王線車内でAmazonで買ったばかりの本書を読んでいたのであるが、丁度、中ほどの「はた迷惑な訪問者―軍の検問」に差しかかり、その理不尽さに私のアドレナリンもいつしか全開となっていた。近代国民国家という共同幻想はその内在する排他性によって一民族一国家の虚構をも産み落とす。トルコに生きるクルド人も民族の文化、伝統、誇りを捨て、出自を隠蔽し国家に溶解すれば二級市民となれる道が開かれる。しかし出自が分かれば暗黙のうちに差別の対象とされる。なにやらどこか極東の島国と似てなくもない。
松浦さんが10年以上に亘ってクルドを取材し続ける情熱はなんだろう、トルコに生きるクルドの『絨毯織りの女』は既に一番ではないだろう。その文化の背景にある『何か』に心の琴線が突き動かされたのであろう。それはクルドの人々が旅人にみせる「無条件の優しさ」だったり、その裏に隠された哀しみや痛みもその一つであろう。しかし、何よりも「他者の痛みを...」知らぬふりできない...のであろう。
関連ブログ
MyPlace:「彼らの居場所」と「クルディスタンを訪ねて」
MyPlace:「クルド人のまち」
う・らくん家 ( わたしの今 ):松浦範子写真展
う・らくん家 ( わたしの今 ):『クルド人のまち』を10倍楽しむ方法
shinさん、どうもです。
21世紀になって、国家とか経済とかのシステム障害が目立ちますね。
そういえば、今日の芸術劇場はバレンボイムの特集です。
イスラエルとアラブの若者によるオーケストラの演奏があります。
http://madconnection.uohp.com/mt/archives/001712.html
http://www.nhk.or.jp/art/current/music.html
素朴なテモとかオスタッド・エラーヒというクルディスタン音楽家を思い出しました
舞踏や音楽は瞑想的で独創的で、とても素晴らしいです
地理的側面だけでなく、国境なんてないですね
そういえば、2002年ワールドカップが終ってから、日本が負けたトルコへの観光客が増えたと云いますから、世の中面白いです。あの時はベッカムとミーハー人気を二分したイルハン(İlhan Mansız)の追っかけまで現れたけれど、あの人は今....と画像を検索してみたら...『俺だって、いつまでも優男じゃない...』て感じですね。そりゃそうだ。
Posted by: iGa at April 2, 2009 09:53 PMこういう地図がほしいと思いながら、まだつくっていませんでした。これを見ながら、もう一度あとをたどりたいですね。
昼休みに、昨夜のワールドカップ予選のスペイン対トルコの試合をテープで見ながら、この本に書いてあったことを思い出していました。・・・トルコが日本に2002ワールドカップで勝ったことを、トルコに弾圧されているはずのクルド人が誇らしげに話していたという場面です。そういう複雑な感情があるから、世の中というのは面白いんですがね。