May 08, 2008

源泉の思考・谷川健一対談集

源泉の思考・谷川健一対談集
東京新聞日曜日の読書欄・新刊案内に『列島の旅と短歌、経世済民、民衆の暮らしの伝承...。民俗学の祖・柳田国男の方法と精神をもっともよく受け継ぐ在野の民俗学者の対談集。....』と紹介されていた。その谷川健一の相手を務める対談者の顔ぶれに興味を覚えAmazonに注文してしまった。連休最後の日の朝に届いた本を開き頁を捲り、最初の鼎談『いま、民俗学は可能か』に目を通すと、そのプロローグは柳田礼賛ではなく柳田国男批判である。私のような研究者でない門外漢の一般人にとって、こうした対談集は、戦後の民俗学を俯瞰的に捉えるのに最適かも知れない。

鼎談「いま、民俗学は可能か」の序文として「民俗学はなぜ衰退したか」が寄せられているが、その一部を引用すると...

...「いまの民俗学は落日のなかにある。...今日の民俗学は、厚い雲に包まれたまま姿もみせずに沈んでいこうとしているのではないか」と。...
...それはたしかに当っている面があるわけです。なぜかというと、一つは柳田が民俗学の枠組みをつくって、それからはみ出したり逸脱したりすることを許さなかったからだと思うのです。それが批判精神をなくしていった原因ではないかと思う。....
....経済成長によって農村は崩壊していくし、一方で減反政策をとらされるわけですから、やはり農民のあいだにニヒリズムみたいなものが産まれてくる。そういう農村の崩壊、農民のニヒリズムは、稲を中心とした日本民俗学の魂の衰弱と、パラレルなかたちをとっているのではないかと私は思うのです。...

戦後の農地改革による小作人の開放と1950年代の豊作による農民のつかの間の幸せは10年と続かなかった。穿った見方かも知れないが、減反政策は農家の力をこそぎ落とし、農民が団結し一揆に向かうエネルギーを奪う為の国家的政略とも...。
過疎という現実に苦しんでいる村を前にしたときに、その現実を見ないふりをして、依然として柳田国男時代のマニュアルどおりの聞き書きなり、調査項目なりを村に押しつけて、そこで掬いとれたものを牧歌的に再構成して、村の民俗誌のようなものを再生産してきたのが戦後の民俗学ではないか、そういう民俗学に携わる人々の心性もほんとうはニヒリズムなのかもしれないと思うのです。それは、明らかに、農民のニヒリズムという現在の事実にきちんと向かいあっていないわけです。...

内容と対談者
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いま、民俗学は可能か  山折 哲雄赤坂 憲雄(1997.7.31) 
柳田の経世済民の志はどこにいったのか  小熊 英二(2002.11.20)  
南の精神誌  岡谷 公二  
民俗学の可能性  網野 善彦宮田 登(1996.1.17)
網野史学をめぐって  山折 哲雄、赤坂 憲雄
精神史の古層へ  赤坂 憲雄
日本人の他界観  赤坂 憲雄
大嘗祭の成立  山折 哲雄
市町村合併の新地名に異議あり  今尾 恵介  
現代民俗学の課題  宮本 常一  
旅する民俗学者・宮本 常一  佐野 眞一(2005.2.8)  
今なぜ「サンカ」なのか  礫川 全次(2005.4.18)
瞬間の王 詩人谷川雁  齋藤 愼爾(2002.2.28)  
古代人の心と象  白川 静山中 智恵子水原 紫苑
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世代も経歴も考え方も異なる者同士の対談は時に見解の相違で不協和音を奏でる処もあり、興味深い一冊である。

Posted by S.Igarashi at May 8, 2008 10:43 AM | トラックバック
コメント

Fumanchu せんせー、どうも。

>などとおっしゃるボス、という印象ですね。

そのうえ気難しい貴族....というイメージがあるらしい。

宮本 常一といえば、ポルノ版「土佐源氏」と云うのもあるらしい、「四畳半...」より傑作ということらしい。

ヴィスコンティの「夏の嵐」を観て以来、アティックは愛人を匿う場所というイメージが....

Posted by: iGa at May 10, 2008 02:34 AM

AKi さん、どうもです。

この本は口語体による対談集なので、内容の濃さの割に読み易いですね。
僕も最近エントリーを書く前に、自分のブログを検索したり、ご近所ブログを検索して関連情報がないか確認するようにしてます。
内容に対談者の情報をリンクしましたが、初出一覧の情報を加えてもよかったかな...と。

Posted by: iGa at May 10, 2008 02:06 AM

柳田国男というと膨大な著作の中で

という感じがする。
というイメージがある。
かもしれない。
ということらしい。

ので、キミタチ実証してご覧。
などとおっしゃるボス、という印象ですね。

網野義彦のご子息の写真は次に貼ってあります。
http://www.tcp-ip.or.jp/~ask/dh0801/atom/atom.html

宮本常一に「60歳まで書いてはいかん。」
と言われた村崎修二が、
「60歳になったので、日本常民文化研究所は渋沢敬三のアティックミュージアムだった、という話を書く。」
と言っていました。

先日は井伊谷の渭伊神社へ。
http://www.tcp-ip.or.jp/~ask/dh0801/katuo08/katsuo81.html

どなたか
井伊谷つまり飯谷であるのかもしれない。

を実証してくれる方は居らんか。

Posted by: Fumanchu at May 9, 2008 01:49 PM

そうなのかぁ........というわけで、読もうと思います。
赤坂憲雄の名前がたくさん......、そいういえば「網野善彦を継ぐ。」で中沢新一と対談されていたなぁ、と自分のブログを検索してみたのでした。

Posted by: AKi at May 9, 2008 11:38 AM

栗田さん、どうも。
冨山房は神保町の神田すずらん通りの東京堂の斜向いにある老舗書店でしたが冨山房インターナショナルの設立は最近で私も知りませんでした。最近といっても15年前か、うーむ。(^_^;)
そういえば、ここ最近、神保町にも行ってないなぁ。

Posted by: iGa at May 9, 2008 10:08 AM

佐野眞一を通じて宮本常一の軌跡を辿り始めた私としては、この本の紹介、興味深く拝見しました。本書の版元である冨山房インターナショナルの存在も初めて知り、現在配本中の「谷川健一全集 第19巻:独学のすすめ」も読んでみたい1冊として知ることができました。感謝!

Posted by: 栗田 at May 9, 2008 09:31 AM