November 23, 2005

セルフビルド・ビルヂング

株式会社クロサワの沿革によれば1912年(大正元年)に東京・京橋区尾張町2丁目(現銀座6丁目)に黒沢商店ビルを建築している。この黒沢商店ビルは1979年(昭和54年)に建て替えられた。新しくなったクロサワビルの外壁には旧黒澤商店ビルで使用されていたレールが記念プレートと共に埋め込まれている。旧黒澤商店ビルは日本で最初の鉄筋コンクリート造りの事務所建築として関東大震災や第二次世界大戦の戦禍を生き抜いてきた。この旧黒澤商店ビルが解体されるときに建築家・槇文彦氏がゲスト出演したテレビ放送を見た。26年前以上のことなので全て記憶している訳ではないが、その放送によれば、旧黒澤商店ビルは施主による直営工事、今風に言えばセルフビルドだったということである。もちろん施主は建築の専門家ではない、それでも確かドイツ等の先進国から文献を取り寄せ研究を重ね、設計から工事まで行い完成させた。解体現場を見た槇文彦氏は鉄筋の配筋からコンクリートの品質まで、解体工事が難航する程の丁寧な仕事ぶりに驚嘆していた。そして技術の普及に伴って失われていった技術への尊厳を改めて考え直すことが必要ではないだろうかと云う意味のことを語っていたと思う。
技術への信頼は、技術への畏怖を失った時に崩れ去る。耐震強度偽造事件はそうして起きたのだろう。「ものつくり」の貴さが失われ、技術者が蔑ろにされ、ヒルズ族が持て囃される時代への警鐘と受け止めるべきだろう。

Posted by S.Igarashi at November 23, 2005 03:02 PM
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