週刊文春6月9日号に【読者に贈る・こころに残るナンバー1「小説」「映画」「音楽」小誌連載陣大アンケート】という趣向の企画ネタがあった。つまり週刊文春に連載している執筆者達に「私が感動した小説ナンバー1」「私が感動した映画ナンバー1」「私が感動した音楽ナンバー1」を答えてもらおうという企画なのだが、一人、HMだけが「私が感動した音楽ナンバー1」の質問に対して「特になし:CD、LPからすごい感動を受けたことはない。生の演奏に遠く及ばないと思ってます。」と答えている。まるで特権階級のお抱え宮廷音楽家を従えている人のような発言である。
質問内容を正しく理解しての回答なのか不明だが、世界中の音楽愛好家を敵に回すような尊大な答えである。別にCD、LPに特定している訳ではないのだから、CD、LPからすごい感動を受けたことがなければ、自分が感動した生演奏、コンサートやライブ、路上パフォーマンス、先住民の唄う民謡等々、記憶に残る演奏会について答えれば良いのである。それがなければCD、LPから云々は言う必要はない。CD、LPが生の演奏に遠く及ばないという発想は、逆説的に言えば内容ではなく音響をプライオリティにするオーディオマニアと大差ない。尤も、最近で生の演奏会をどれだけCDに近づけることができるか、それが問題となっているくらいである。生の演奏だからといってCDよりも内容が優れているとは限らないのである。
何れにせよ音楽は耳で捉えた音を脳内で連続した時間軸に基づいて再構築することによって成り立つ極めてアナログ的なモノである。もしも、脳内で連続した時間軸を構築できなければ音楽も言葉も我々は失ってしまう。音楽は耳で聴いているのではなく脳で聴いているのである。CDやLPは時間や空間の制約から我々音楽愛好家を解放してくれた。更にiPodとiTunesはそれを極限にまで高めた。さぁ、脳をリフレッシュするためにiTunesで音楽を聴こう。