December 26, 2004

記憶に残る演奏会

今まで聴きに行った演奏会でベストワンをあげよと言われたら迷うことなく1978年6月2日のタシ(TASHI)の演奏会をあげる。西武劇場オープニング5周年記念公演と謳われた武満徹・企画構成によるMusicToday '78の一夜である。タシ(TASHI)はピアノのピーター・ゼルキン、チェロのフレッド・シェリー、ヴァイオリンのアイダ・カヴァフィアン、クラリネットのリチャード・ストルツマンからなるカルテットである。タシ(TASHI)は幸福を意味するチベットの言葉。
演奏会の圧巻はオリビエ・メシアンが捕虜収容所時代に「ヨハネの黙示録」を主題に書いた「世の終わりのための四重奏曲」だった。良い演奏会は音楽家だけでなくオーディエンスもそこに参加することで成り立つ。そこには一つの音も聴き逃すまいと集まった500人ほどのオーディエンスがいた。ピアニッシモではヴァイオリンのアイダ・カヴァフィアンの息遣いまで聴こえてくる。演奏が終わって暫くのあいだ、演奏会場は濃密な静寂に包まれていた。オーディエンスも演奏者もその静寂を共有していた。そして鳴り止まぬ拍手。たぶん、一生に一度立ち合えるかどうか分からない演奏会だったと思う。


TIMEDOMAINでもらったパンフレットの記事からTASHIの演奏会を思い出した。

オーディオの使命 由井啓之
いくら良いオーディオでも生演奏には及ばないでしょう、と言う声を聞きます。私はそうは思いません。昔、年に100回も演奏会に通ったことがありました。でも、良かったな、と思ったのはせいぜい数回でした。ホールの問題も含めて会心の演奏にはなかなか当たりません。ジャズクラブに行っても二流のプレイヤーが変なスピーカーを使っての演奏で、なかなか感動には至りません。超一流のプレイヤーもきらきら輝いている期間はほんの僅かです。大抵輝きを失っているか故人になっています。レコードには素晴らしい演奏が残っています。それをチャンと再生すれば何時でも素晴らしい感動を得ることができます。また世界中に素晴らしい音楽があります。その感動を皆に伝えるのがオーディオ技術者の、研究者の使命ではないでしょうか。論文のための研究、売れる商品のためのエンジニアリングという風潮を憂慮します。

Posted by S.Igarashi at December 26, 2004 01:12 PM | トラックバック