March 27, 2005

A VERY LONG ENGAGEMENT

戦争には勝者も敗者もいない、殺された者と生き延びた者がいるだけだ。
映画『ロング・エンゲージメント』を見た。フランス映画だと思っていたが、制作配給がワーナーブラザーズによるアメリカ映画である。原作はセバスチアン・ジャプリゾの"Un long dimanche de Fiancaille"(婚約者の長い日曜日)邦題「長い日曜日」である。恐らくはワーナーブラザーズ制作ということで、英語のタイトルになっているのだろう。映画は「アメリ」のジャン=ピエール・ジュネ監督とオドレイ・トトゥの主演ということから解るように、アメリカ映画であるが監督も出演者もフランス語圏の人々で固めている。例外は脇役として出演しているジョディ・フォスターだけである。
エンゲージメント(婚約)はフランス語的に発音すると「アンガージュマン」と言うらしい。広辞苑第五版によれば【アンガージュマン:(約束・契約・関与の意) 第二次大戦後、サルトルにより政治的態度表明に基づく社会的参加の意として使われ、現在一般に意志的実践的参加を指す。】とある。このタイトルが世界共通だとすると婚約者を"Fiancaille"から"ENGAGEMENT"に変更した理由に監督の思惑が隠されているのかも知れない。

長い日曜日とは第1次世界大戦の真っ只中、1917年1月の或る日曜日、フランス北部でドイツ軍と交戦しているフランス軍の最前線の塹壕「ビンゴ・クレピュスキュル」で起きた5人の戦争犯罪者の処刑(みせしめのリンチもどき)に隠された事実をオドレイ・トトゥ演ずるマチルドが明かしてゆくミステリーである。
映画は婚約者の生存を信じるマチルドのミステリー・ラブロマンスを前面に宣伝しているが、監督が描きたかったのは20世紀初頭の徴兵制度によって一般市民を飲み込んでゆく近代戦争であろう。それは封建国家に取って代わった国民国家という近代が生み出した国民的同一性という幻想や近代的神話が内包する矛盾でもある。

共同通信の従軍記者として戦地で取材した事の或る作家・辺見庸が戦場のイメージを「赤い薔薇」に例えていたが、マチルドの婚約者・マネクが隣りにいた兵士を直撃した砲弾によって「赤い薔薇」を全身に浴びるシーンを見て辺見庸の例えがその通りなのだと思った。とにかく、アメリカ資本で作られた映画なので火薬の量が半端ではない。目を覆いたくなるシーンも多いが、戦前の軍国主義へと回帰しようとする風潮を思うと是非見て欲しい映画である。

Posted by S.Igarashi at March 27, 2005 11:30 AM