June 26, 2004

黄昏る建築雑誌

売れているのは相変わらず「バカの壁」だけ、「バカの壁」に続けと他の出版社もヨーロー先生を詣で、似たような類いのヨーロー本を出しているようでは、この出版界の「不況の壁」をとても崩せそうにもない。書店に平積みされている「バカの壁」を見ると、出版不況の犠牲になって裁断されてしまう新刊書を読者の目に触れないようにする「バカの壁」になっているように思えてくる。

建築ジャーナリズムが存在するかも不明だが、バブル崩壊後の建築雑誌の落ち込みは、たとえ景気が回復したとしても立ち直るとは思えない。書店から建築雑誌のコーナーが消えつつある。知らぬ間に鹿島出版会の【SD】は休刊、建築系出版社の老舗・彰国社が発行する【建築文化】は隔月刊となってしまった。やはり、これらの建築雑誌の凋落も学生が本を読まないし買わなくなったからであろう。情報収集のアイテムのなかで印刷物の優先順位が年々落ちているのは確実、キーワード検索可能なwebの即答性に敵わなくなっている。

新建築社の【新建築】は今のところ健在だが、以前に比べると広告ダイエットに成功したのか随分と薄く軽くなった。
建築系出版社としては後発の【建築知識】は社名をX-Knowledgeと変え、雑誌【X-Knowledge HOME】を出したが通巻23号で失墜、新しい建築雑誌を目指したのだろうが、贔屓目に見てもフォーカスが定まっておらず、やりたいことが伝わってこない。同じく後発の建築資料研究社の【住宅建築】は変わり映えなし。
不可思議なのは近代建築社の【近代建築】誰が買うのか知らないが継続している。特集を組まれた設計会社の販促アイテムにしかなりえないが、書店にも置いてあるのが分からない。
なんとなくエコブームに便乗したカタチで創刊された「チルチンびと」「住む」はどちらが生き残るのか、どうなんだろう。
他の建築系出版社と一線を画しているGAもバックナンバーを取りそろえている書店が減ってきている気がする。

そうした建築系出版社の悲鳴をよそに、成功しているかに見える娯楽系商業誌の平凡出版改めマガジンハウスの【カーサ ブルータス】は差し詰め建築スノッブの愛読書であろう。広告内容を見ても、相当な販売部数を確保しているのが読める。【カーサ ブルータス】の手に落ちれば巨匠といえども情報消費される対象としてブランド品と肩を並べ、建築思想もファッションと同レベルのアイテムとなるのである。
エスクァイア日本版は先月号でオランダ建築の特集を組んでいる。TBSブリタニカが阪急電鉄に売却され、社名が変わった「阪急コミュニケーションズ」から出版されている男性向情報誌Penは度々、住宅の特集を組みようである。
嘘か真か、高名な建築家が某商業誌系出版社から資金援助を受けたという噂話も伝わっている。専門家しか読まないような建築雑誌に掲載されるより、一般大衆雑誌で特集を組まれるほうがマーケティングには有利である。その意味で建築家と大衆雑誌の利害は一致するのである。

追記:(6/28)
そういえば美術出版社からは「国際建築」が月刊誌として1967年まで発行されていました。確か最後が帝国ホテルの保存問題と丸の内の東京海上ビルの美観問題。他に月刊誌で「建築」が出版社を替え休刊したり再刊したりしていたけど1970年代前半に廃刊になってました。(最初が槇書店、最後が中外出版株式会社)、昔は青土社からも建築雑誌が出ていたような気がするけれど、私の記憶違いかも知れません。そういえば米国でも90年代にPAが廃刊(休刊?)されたときにK君が嘆いていたことを思い出した。

Posted by S.Igarashi at June 26, 2004 06:11 PM | トラックバック
コメント

建築雑誌だけでなくて
いつの間にか
MacFanとMacPeople どちらも月刊になっていましたね。

Posted by: 古川 泰司 at June 28, 2004 01:01 PM

建築雑誌、特に専門誌の衰退は憂慮すべき出来事ですね。専門誌だけに業界の縮小の波をもろに食らっているのでしょうね。近代建築は特集される側が費用を払っているという話を聞いたことがあります。つまり雑誌自体が広告媒体なのです。
いつの時代も建築家は社会のヘゲモニー争いに巻き込まれる運命にあるのではないでしょうか?それは善し悪しではなく建築家を取り巻く環境として対処していくことが、純粋芸術とは異なる建築家のリアルな姿である思います。レム・コールハースはあらゆる分野のキーパーソンと接続することで活躍のフィールドを拡張し古い建築家像の壁を飛び越えています。もはや芸術家肌で少し影の差した建築家像は過去の伝説となってしまったのでしょうか?
ちょっと生意気言ってみました。

Posted by: ishiakwa at June 27, 2004 12:41 AM