デジタル鳥瞰・江戸の崖 東京の崖
芳賀ひらく・著/講談社・刊(本体価格1800円)
JEDIの間では「川好き男」さんとして知られている之潮代表・芳賀さんの新刊が講談社から発行された。江戸東京の「地形」から「凸凹」「川」「橋」「坂」「道」「階段」「スリバチ」「地名」「謎」等々などをテーマにした本が数多く出版されているが「崖」を俎上にした本は初めてかも知れない。芳賀さんの会社・之潮の刊行物をみると「地盤災害」とか「江戸・東京地形学散歩 災害史と防災の視点から」等、興味本位の都市散策ガイドブックではなく都市災害の切り口から都市を俯瞰する書籍も多く、メジャーな講談社から上梓された本書は、ツカミはガイドブックの体を成しているが、火山灰の堆積した武蔵野台地の微地形を切り崩し、盛土し、低湿地を埋立て、その結果としてあらわにされた(人為的)な崖を切口に江戸東京の脆弱な面をあぶり出している。
内容
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崖を見に
第1章 江戸の崖・東京の崖
第2章 「最も偉大」な崖...日暮里周辺...
第3章 崖棲み人と動物たち...麻布...
第4章 崖沿いの道と鉄道の浅からぬ関係...大森...
第5章 崖から湧き水物語...御茶ノ水...
第6章 崖縁の城・盛土の城...江戸城...
第7章 切り崩された「山」の行方...神田山...
第8章 崖の使いみち...赤羽...
第9章 論争の崖...愛宕山...
第10章 「かなしい」崖と自然遺産...世田谷ほか...
第11章 隠された崖・造られた崖...渋谷ほか...
最終章 愚か者の崖...「3.11」以後の東京と日本列島...
あとがき
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崖の無い低湿地で生まれた私にとって荒川放水路の土手が高低差のある風景として唯一身近なものであった。物心ついて初めて見た崖は第2章...日暮里周辺...鴬谷駅のホームから見た上野台地は寛永寺の崖だろう。鴬谷から京浜東北線に乗り第4章...大森...の善慶寺参道にあった伯父の家から、山王の尾根道伝いに大森駅まで歩いたことが一度だけある。それは当時人気絶頂期に息子を誘拐された自称ボードビリアンの家の前を通り...「いいかい知らない人に付いていったら絶対ダメだよ」と伯母と母に説教された時だが、子供心に家は貧乏だから心配無用と思ったが、口答えすると大森駅前の不二家で菓子を買ってもらえないので黙って頷いた。
そういえば崖からイメージするものとして現在の代々木四丁目付近を描いた「岸田劉生の切通之写生」の赤土の関東ローム層があらわにされた景色が思い浮かぶ。それは八王子に越してから学校に通うのに毎日歩いた赤土の切り通しの峰開戸の風景に似ているからだろう。切通之写生と同じような構図の写真が「写真で見る江戸東京 (とんぼの本)」でも見られることから、こうした切り通しは江戸東京に遍在する風景であったと思われる。(訂正とお詫び:手持ちの本が見つからず、古本をネットから購入したら、切通しの写真が見つからず...どうやら別の写真集だったらしい。m(_ _)m)
この様な赤土が露出した切り通しも、道が舗装され、崖には擁壁が設けられたり、切通しに面した高低差のある敷地に建蔽率をフルに活用して建てられたビルが擁壁を兼ね、地上に面していても地階という倒錯した建物が現れるに至っては、もはや元の地形を記憶する手立てさえ失い、代々木四丁目は刀剣博物館近くの坂道から「切通之写生」を思い浮かべることすら困難となっている。
追記:本書でもカシミールと数値地図5mメッシュ(標高)からデジタル鳥瞰図が作成されている。カシミール(Windowsのみ)はパブリックドメインなので無料で入手できるが、数値地図5mメッシュ(標高)は日本地図センターから有償(地域毎・7500円)で入手する必要がある。そんな面倒くさいことは苦手な人にはGoogle Earthに...東京地形地図を表示させる方法もある。