April 04, 2011

ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸

ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸
1954年3月1日ビキニ環礁で行われた水爆実験によって被爆した第五福竜丸のルポルタージュの雑誌挿絵をベン・シャーンが描いたのは1957〜8年に掛けての事、その後ベン・シャーンは同一テーマでタブローの連作"Lucky Dragon Series"を制作していた。本書はそれから半世紀以上を経た2006年にアーサー・ビナードによって一冊の絵本にされたものである。ベン・シャーンにこのようなテーマの連作があった事も知らなかったし、それが絵本になっていたことも知らなかった。
巻末の「石に刻む線」と題されたアーサー・ビナードによるベン・シャーンの伝記を読むと「サッコとヴァンゼッティ事件」をテーマにした連作も描いていた。(この事件をテーマにした伊・仏合作の「死刑台のメロディ」は40年程前に私も見たが米国が国家の元にリンチを正当化した典型的な冤罪事件であった。)ベン・シャーンは"Lucky Dragon Series"の連作を、無線長・久保山愛吉を主人公に描いている。

『放射能病で死亡した無線長は、あなたや私と同じ、ひとりの人間だった。第五福竜丸のシリーズで、彼を描くというよりも、私たちみなを描こうとした。久保山さんが息を引き取り、彼の奥さんの悲しみを慰めている人は、夫を失った妻の悲しみそのものと向き合っている。亡くなる前、幼い娘を抱き上げた久保山さんは、わが子を抱き上げるすべての父親だ。』
その想いが、孫以上に年齢差のあるアーサー・ビナードを動かし絵本へと結実したのだろう。それは人の死を統計上の数値としか見ない為政者とは対極にあるだろう。
思えば東日本大震災の前日の2011年3月10日にどれだけのメディアが1945年の同日に起きたことを伝えたのだろうか。私たちの記憶は風化することを肝に銘じなければいけないと思う。
追記:奇しくも原爆の図丸木美術館で4月30日(土)まで「第五福竜丸事件展 ベン・シャーンと丸木夫妻」が開催されています。
asahi.com2011年3月6日「人類は第五福竜丸に乗っている」米詩人と元乗組員対談
関連:MyPlace・ここが家だ/ベン・シャーン画/アーサー・ビナード構成・文

Art as Activism: The Compelling Paintings of Ben Shahn

映像開始から7分位の処で"Lucky Dragon Series"が紹介される。

The Lucky Dragon Incident

第五福竜丸の事件当時、私は五歳、大人たちが「ビキニマグロ」や「死の灰」や「放射能の雨」と口にしていたのは憶えている。映画館で見たニュース映画による映像の記憶はもう少し後の記憶かもしれないが、それでも足立区に住んでいた七歳までの記憶だ。その当時、町の医院や歯医者の待合室にあった世界画報等のグラフ誌には子供に見せたくない様な残酷な写真で溢れていたが、私は親に咎められることなくそれらを見ることができた。戦争を知らずに生まれてきた子供であったが、戦争や核の悲惨さは、戦後次第に明らかにされてきた惨たらしいそうした写真によって知ることができた。しかし、現在はどうだろう。自主規制により子供の目はおろか成人の目にも触れないようにされている。
1994年に制作されたこのドキュメントを見ると、そうした情報操作を如何にメディアは成し遂げてきたかが良く解る。そしてCIAのエージェントであり、プロ野球の父、テレビ放送の父、原子力の父とされた正力松太郎の役割も分かる。果たしてこの番組を再放送する気概が現在のNHKにあるだろうか。大手メディアが「永田町の犬」と化し「官僚保護団体:ナガタチョー・シェパード」となっている現況では難しいだろう。

GoogleVideo「原発導入のシナリオ 〜冷戦下の対日原子力戦略〜」(連続再生可能)
植草一秀の『知られざる真実』原発政策を誘導した米国核政策必見ドキュメント
東京都立第五福竜丸展示館
第五福竜丸元乗組員・大石又七さん (1/2)
第五福竜丸元乗組員・大石又七さん (2/2)
2008年9月23日(故・久保山愛吉・命日)大石さんから①
2008年9月23日(故・久保山愛吉・命日)大石さんから②
余談:....『じゃぁ、ビキニ環礁は?』『えっビキニ鑑賞って...』 昨日、研究室の歓送迎会で期待通りのリアクションをしてくれた教え子の助手...彼女が知らないのも無理もないでしょうね。風化される反核運動(3/24のツイート)

Posted by S.Igarashi at April 4, 2011 10:00 AM
コメント

奇しくも原爆の図・丸木美術館で開催中の「第五福竜丸事件展 ベン・シャーンと丸木夫妻」が4月30日(土)まで期間延長されます。
2011年3月6日 asahi.com
「人類は第五福竜丸に乗っている」米詩人と元乗組員対談
http://mytown.asahi.com/areanews/saitama/TKY201103050435.html

Posted by: iGa at April 6, 2011 08:48 PM

玉井さん、どうもです。

節電休館から再開された八王子市立図書館を調べてみたら5ヶ所の図書館で南大沢と生涯学習センターの二冊だけ、肝腎の市立中央図書館には置いてないようで...なんだかです...が、二冊の内、一冊は貸出し中なので、まだ救われました。

Posted by: iGa at April 6, 2011 09:59 AM

 ぼくは、この本の存在も知らず、したがって読んだこともありませんでした。
だから、栗田さんのコメントを読んでその通りだと思い、中野区立図書館はどれくらい持っているんだろうと思って、さっそく検索してみました。
8カ所の図書館で一冊ずつ持っているので、なかなか感心だと思いましたが、貸出中はゼロでした。
すぐに借りられると安堵すると同時に、貸し手も借り手も、ぼくのようにこの本のことを知らないことに気づきました。さっそく予約しました。
図書館に行ったら、原発の資料を特集するよう、館員にすすめます。

Posted by: 玉井一匡 at April 6, 2011 07:46 AM

Kuritaさん、どうもです。

僕も、放射能汚染から第五福竜丸を検索してみて、この本の存在を知りました。
ベン・シャーンの云う「私たちみなを描こうとした。」は久保山さんは自分だったのかも知れないと云う想像力だと思いますが...東日本大震災で亡くなられ...がれきの下や...まだ原発の周辺で放置された方々、それぞれ一つ一つの物語を持って生きて来られえた方だと思います。もしかしたら、自分も骸として横たわっていたかも...知れないと...
世界中に拡散された原発を私たちみなの問題として考えなければ...いけないでしょう。

Posted by: iGa at April 5, 2011 10:10 AM

数日前から、家人の机の上にこの表紙の本が置かれていました。
よく本を読む人なので、また新しい本を読み始めたのだなと、特に気にしなかったのです。iGaさんのブログでこの本が紹介されていたのでびっくり!!
おもわず手にして、一気に読みました。
どうしてこの本を知ったのか、あとで聞いてみると、友人に薦められたとのこと。
このような時期に、公営の図書館がしかるべき役割を果たして欲しいと思いました。

Posted by: Kurita at April 5, 2011 09:21 AM