June 12, 2008

六月のテロル

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重いし、辛いし、悲しくてやりきれない事件だ。事件と関わりのない多くの日本人も傷ついたと思う。いや、私たちの疲弊した社会もこの事件がボディブローの如く働き今にも崩れ落ちそうに思える。何処にでも居そうな青年を狂気に駆り立て殺人鬼に仕立てたのは...紛れもなく私たちの社会なのだ。私たちの中に被害者の嘆きと加害者の悪霊が混在している。誰も傍観者ではいられない、それがこの事件だと思う。
奇しくも事件の四日前に時代背景となった格差社会の現実を言及した辺見庸による『プレカリアートの憂愁』と題したエッセーが東京新聞夕刊に掲載されていた。話は四年半ぶりに客員教授をしていたときの教え子に会ったことから始まる。

そのエッセーの一部を要約すると...
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彼は大学卒業後、中堅の広告会社に就職、そこで軽度の鬱を発症、通院しているうちに会社も退職、その後、様々な職業を転々とするが何れもアルバイトで定職には就いていない。『ぼくら、いったんプレカリアートとしてアンダークラスにくみこまれたら、袋小路からぬけだすのは不可能にちかいんですよ。』辺見庸は耳慣れない言葉に戸惑いを隠せない。
そして教え子から二つ問われる。一つ『このような時代を経験したことがありますか。』二つ『いま、いったい、なにに怒ればよいのですか。』それに辺見庸は反問する『プレカリアートは怒っていないのか、団結しないのか。』と、教え子は吐き捨てるように『自殺多いでしょ。あれって変種のテロじゃないですかね。』『大恐慌、きますか。きたら、ガラガラポンですよね。』
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まさに状況は『出口なし』だけでなく奈落の『底』さえも抜けてしまっている。

書店に平積みされている『蟹工船』そのブームの火付け役とされる雨宮処凜は「プレカリアートとプロレタリア文学」の中で時代は繰り返すというよりは、悪化しているこの状況を、当事者だけでなく、多くの人たちが知るべきではないでしょうか?と語る。

嘗て法律によって守られていた労働者の権利は労働者派遣法によってなし崩しにされた。人材派遣によって供給される歯車はカンバン方式の元で出荷も調整され、高い歩留まりが要求される。
加害者が勤務していた企業の6月9日付けのニュースリリースを読むと派遣会社による歩留まりの低下に問題があるかのようにも受け取れる。

人が人として扱われず、社畜と化した中間管理職は心を閉ざし業務命令を下す。人間関係は分断され憎しみの対象となる相手の顔も見えない。「結いの心」は失われたのか「市場原理と企業」について東京新聞(東京中日新聞)の挑戦は続く。(トヨタの地元、中日新聞が5/11から6/10に亘り連載した特集記事を再構成して5/30から東京新聞で連載。)

自殺者と同じ心理であろうか、ネットに書込を続けていた加害者は狂気へと暴走する自分を止めてくれる者が現れるのを待っていたようだ。オーデンの「われらの狂気を生き延びる 道を教えよ」のフレーズがこだまする。誰からも「生き延びる道」を教えられず、加害者の狂気は格差社会の元凶に向かうことなく、無防備な弱者に対し牙をむけた。日曜の午後、秋葉原を散策する人々、加害者はそれらの人々に自己を投影して狂気に及んだのであろうか...。それは倒錯した自死なのだろうか...。

....『このような時代を経験したことがありますか。』....

Posted by S.Igarashi at June 12, 2008 08:18 PM
コメント

どうも....光触媒とか酸化チタンとか、なんたらですか。
ヒルズ族の高層アパートも、まったく実態のない虚構のような建築で....不気味....。

Posted by: iGa at June 14, 2008 02:51 PM

ちょっとズレますが、

住宅のクライアントと
「面白いタイルが無い。」という話しをしていて、
INAXのショウルームを覗いてみて愕然としたのは、
タイルがしばらく前と全く変わっていること。

既に建材は「クレームレス」を軸に動いているのですね。
品川駅東口の不気味さがこれでは、

http://www.trekearth.com/themes.php?thid=10205

Posted by: Fumanchu at June 14, 2008 01:55 PM

AKiさん、どうも。

ん〜、リアルですね...。
カンバン方式は在庫を抱えないというメリットだけが強調されますが、歩留まり100%はありえない、結果としてリコール問題にも繋がり...「モノづくり」を大切にするなら...考えられない...ですね。

Posted by: iGa at June 14, 2008 08:18 AM

Hatena Diary「何かごにょごにょ言ってます」の記事です。

【秋葉原無差別殺傷】人間までカンバン方式
http://d.hatena.ne.jp/boiledema/20080610#1213114352

Posted by: AKi at June 13, 2008 09:47 PM