December 12, 2007

ちかごろ新書が...

トーハン調べによる2007年間ベストセラーの第一位が『女性の品格 』なんだそうである。昨年の第一位が『国家の品格 』だから柳下に泥鰌が二匹いた訳である。と云うことで、ちかごろ新書がブームなのか、どこの出版社でも新書を出すようになった。Wikipedia調べによれば30社から42の新書シリーズが出版されているが、書店店頭で見たところWikipediaのリストにない新書もあって、まだ増え続けているようである。現在、東京新聞夕刊・文芸欄に植田康夫氏による『本は世につれ・戦後ベストセラー考』と云うコラムが連載されているのだが、その11月22日付けの47回目に光文社の「カッパブックス」誕生の経緯が紹介されていた。

その一部を引用すると...

 伊藤整の要請で、新書判の双書創刊を決意した神吉晴夫だが、伊藤の『文学入門』をトップバッターにすることは決まっても、双書名は考えあぐねた。
 人真似をしないことを信条とする神吉は、岩波新書と異なる新しい双書をと思い、タイトルにもこだわった。・・・中略・・・
 ・・・《これで、私は新しくスタートする軽装判シリーズに、カッパという名前をつけることに踏みきった。けれども、「カッパ新書」では、新書という新語をつくった岩波茂雄さんに面目ないし、さりとて、「カッパ文庫」 「カッパ双書」では、古めかしい。もっと今日的な感覚が欲しかった。これは、ひとつ、外国のものにならって、・ブックスをつけ、「カッパ・ブックス」にしようと考えつく。ブックスという言葉なら、小学生だって知っているだろう》・・・

人真似を嫌い、且つ岩波新書を創刊した岩波茂雄に敬意と仁義を通した神吉晴夫は草葉の陰から現在のような新書ブームをどのように見つめているのだろう。
それにしても昨年に引き続き『品格』をタイトルに掲げる新書が二年連続してベストセラー1位になった訳であるが、Amazonで調べるとタイトルに『品格』を付けた新書がこれだけある。
国家の品格 (新潮新書) 藤原 正彦 (新書 - 2005/11)
女性の品格 (PHP新書) 坂東 眞理子 (新書 - 2006/9/16)
日本人の品格 (ベスト新書 149) 渡部 昇一 (新書 - 2007/7/19)
会社の品格 (幻冬舎新書 お 3-1) 小笹 芳央 (新書 - 2007/9)
話し方」の品格―「品のいい人」になれる10か条 (リュウ・ブックスアステ新書 38) 福田 健 (新書 - 2007/9)
子どもの品格 高橋 義雄 (新書 - 2007/11)
親の品格 坂東 眞理子 (新書 - 2007/12/15)
『品格』ブームの火付け役の藤原正彦は続編を書くことをしないが、尻馬に乗った坂東眞理子は続編を出すようである。

2000年以降、一人で各社から多くの新書を出しているのが解剖学の養老孟司と脳科学の茂木健一郎である。
ベストセラーとなった養老孟司の『バカの壁』は口述した内容をライターと編集者が原稿にまとめ、著者がチェックして一冊の本に仕上げると云うシステムを確立している。原稿用紙に向かい推敲を重ねる、なんてのは過去のこと。最近増えている対談スタイルの新書も似たようなものだろう。

養老 孟司
まともな人 (中公新書) 養老 孟司 (新書 - 2003/10)
バカの壁 (新潮新書) 養老 孟司 (新書 - 2003/4/10)
いちばん大事なこと―養老教授の環境論 (集英社新書) 養老 孟司 (新書 - 2003/11)
死の壁 (新潮新書) 養老 孟司 (新書 - 2004/4/16)
こまった人 (中公新書) 養老 孟司 (新書 - 2005/10)
無思想の発見 (ちくま新書) 養老 孟司 (新書 - 2005/12)
超バカの壁 養老 孟司 (新書 - 2006/1/14)
希望のしくみ (宝島社新書) アルボムッレ・スマナサーラ 養老 孟司 (新書 - 2006/6/13)
ぼちぼち結論 (中公新書 1919) 養老 孟司 (新書 - 2007/10)
バカにならない読書術 (朝日新書 72) 養老 孟司/池田 清彦/吉岡 忍 (新書 - 2007/10/12)

茂木健一郎
脳とコンピュータはどう違うか―究極のコンピュータは意識をもつか (ブルーバックス) 茂木 健一郎 田谷 文彦 (新書 - 2003/5)
意識とはなにか―「私」を生成する脳 (ちくま新書) 茂木 健一郎 (新書 - 2003/10)
知能の謎 認知発達ロボティクスの挑戦 けいはんな社会的知能発生学研究会(共著) (新書 - 2004/12/17)
「脳」整理法 (ちくま新書) 茂木 健一郎 (新書 - 2005/9/5)
脳の中の人生 (中公新書ラクレ) 茂木 健一郎 (新書 - 2005/12)
ひらめき脳 (新潮新書) 茂木 健一郎 (新書 - 2006/4/15)
すべては脳からはじまる (中公新書ラクレ) 茂木 健一郎 (新書 - 2006/12)
フューチャリスト宣言 (ちくま新書 656) 梅田 望夫 茂木 健一郎 (新書 - 2007/5/8)
音楽を「考える」 (ちくまプリマー新書 58) 茂木 健一郎 江村 哲二 (新書 - 2007/5)
日本人の精神と資本主義の倫理 (幻冬舎新書 は 3-1) 波頭 亮 茂木 健一郎 (新書 - 2007/9)
欲望する脳 (集英社新書 418G)茂木 健一郎(新書 - 2007/11/16)
それでも脳はたくらむ (中公新書ラクレ 264) 茂木 健一郎 (新書 - 2007/12)
すべては音楽から生まれる (PHP新書) 茂木 健一郎 (新書 - 2007/12/14)

流石に時代の寵児と云うか売れっ子の茂木先生は新書だけでも今年6冊も上梓しているのである。(訂正:今月分・新書二冊を追加)

こうして眺めてみると活字文化も視聴率第一主義のテレビと云ったメディアと似たり寄ったり同じように見えてくる。どのチャンネルを回しても似たような顔ぶれのタレントやコメンテーターが並び、何かが流行れば、どのチャンネルも似たような内容となるように、出版界も然したる差は無いようだ。『バカ』『ウソ』『脳』『品格』と云ったキーワードを用いたタイトルだけ見ると週刊誌の中吊り広告を見ているようである。玉石混淆の新書の世界、品格を語るも天に向かって唾を吐くようなものに思えてならない。

ところで辛口書評家として知られる大森望が大竹まこと・ゴールデンラジオ!「大竹紳士交遊録」の12月6日放送分のポッドキャスト版のエンディングで大竹の「(年間ベストセラーの)ベスト10にも全部点数付けて欲しいよな...」のフリに対し、大森望曰く「『女性の品格 』に7点が付いたりして...」の軽口を叩いたところでエンド...本音がチラリ。


Posted by S.Igarashi at December 12, 2007 06:07 PM
コメント

じんた堂さん、どうもです。

新書と云えば奥付に啓蒙的なマニフェストがあるものと思ってましたが、ブームに便乗して刊行される新書シリーズは「理念もなにも、そんなの関係ねぇ」ようです。なにやら新書にも賞味期限が...となると、次は偽...か...。

因みに中公新書の装幀は建築家・白井晟一(故人、松濤美術館等を設計、銀座の親和銀行東京支店は壊された。)によるもので、昔の中公新書にはクレジットがありますが、最近の中公新書にはクレジットがありません。恐らく最近の編集者は「そんなの知らねぇ」でしょう。

Posted by: iGa at December 15, 2007 09:30 AM

ここ数年、新書ブームで似たよう本ばかりという話しを聞きましたが、実際にリストを見るとこんなに出ていたのかと驚きました。
最近の本は、本屋に置かれる期間が短いので、とにかく一気に売れることが一番のようで、どうしても既に売れているものの二番煎じになってしまうのでしょう。かつて「岩波新書を何冊読んだかが知識の指標」とされたそうですが、今の新書は、本の作り側も読む側も、軽く読めるものを目指しているようです。これも最近の新書の出版傾向でしょう。

Posted by: じんた堂 at December 14, 2007 11:25 PM