iTunes Music Store で蘇州夜曲を試聴するまでAnn Sallyの名に憶えはなかった。Ann Sallyのサイトを読むと、ニューオリンズに三年間暮らしていたとある。それも音楽修業ではなく医学の海外研修留学だそうだ。ビル・エバンスに楽曲を提供したことのあるデニー・ザイトリンも医者だったから、医者とミュージシャンの二足のわらじはそれほど珍しくもない。そうした多才な彼女であるから唄う曲もジャズ、ボサノバ、日本の古い歌曲とジャンルに捕らわれない。それがたぶん彼女にとって自然な成り行きなのだろう。それでAnn Sallyの唄う蘇州夜曲であるが、僕はこうした頽廃的な薫り漂う音楽は嫌いではない、むしろ好きである。このゆるき脱力系は、やたらと白黒つけたがり絶叫する輩とは対極にあるようだ。