911セプテンバーイレブンス 冷泉彰彦
小学館文庫 定価650円
ISBN4-09-405651-3
作家・村上龍の主宰するJapan Mail Mediaの論客・冷泉彰彦氏の『9・11(セプテンバー・イレブンス)?あの日からアメリカ人の心はどう変わったか』に加筆して文庫本化したもの。
Japan Mail Mediaと冷泉氏の『from 911/USAレポート』(毎週末・土曜日発行)は昨年、秋山さんから教えてもらった。冷泉氏に興味のある人は週末にJapan Mail Mediaをチェックすると良い。但しサイトに掲載されているのは最新号だけ、メールマガジンの配信申込(無料)すれば読み逃すことはない。
ニューヨークの隣、ニュージャージー州に居を構えアメリカの現実を見据えた定点観測、そこから日米関係の歪んだ現実と日本側メディアの温度差が浮かび上がる。
冷泉氏の本を読むのはこの文庫本が初めてである。第1章は事件の翌日、9月12日から始まっている。以外だったのは事件から三週間位までは、混乱はしていたものの冷静さを失わないよう自重的な空気が支配的だったこと、事件後エンヤのCDが売れ、街ではイマジンが唄われ、"unite"をキーワードに、団結しよう、励まし合おう、助け合おうと人々は考えはじめていた。『今の「優しさ」と「連帯感」を忍耐のパワーに変えるとき、本当に新しい歴史が始まる。そんな予感すらします。』と、新しい草の根に期待を寄せていた。
大きく変わったのは事件から三週間経った10月2日のトニー・ブレア英国首相の演説「証拠はある。」「事を起こすときだ。」「他人事ではない。英国に流入するコカインの90%はアフガン製だ。」等々の発言。そこから平和を望むベクトルは歪みねじ曲げられてしまったようである。10月15日の「傷ついた草の根」では、空爆が始まる前にテレビ出演したボブ・ウッドワード記者(PLAN of ATTACK 邦題:攻撃計画 ブッシュのイラク戦争の著者)の「事態に落胆しているんじゃないんだ。とにかく、何をやっても事態が悪くなるとしか思えない、一切何もしない、というのが最善のように思えるんだ。」の発言を引用している。
2004年9月4日発行のJMM [Japan Mail Media]『from 911/USAレポート』 第161回のタイトルは「分裂という病理」でニューヨークの共和党大会をレポートしている。
、、、ですが、そのNYの活気が「カンザスの保守」をバカにするようでは、この国の復興はできないのでしょう。今回の共和党大会である極端なパワーを見せつけた「草の根保守」や「若者中心のアンチ・リベラルの新保守主義」の背景には、自分たちのコミュニティの自尊心が失われていることをベースに、テロの恐怖に対して勝手に自分の感情を移入し、国家に自己を投影しながら他者を排斥する、そんな心理が潜んでいます。他でもないテロの被災地であるNYが、かえってそうした「草の根保守」と対決していってしまう、病理としか言いようのないこの現象に出口はないのでしょうか。来週の911三周年、そしてこの秋の選挙戦を通じて、そうした病理が何らかの形で乗り越えられてゆく、そんな筋道はないのでしょうか。心からそう思います。
思うに米国の大統領選挙は彼ら米国国民のアイデンティティを問うものであろう、それがタコ壺的草の根保守であるならば、世界は21世紀も戦争の世紀に晒されることになる。
追記:金平茂紀のホワイトハウスから徒歩5分にも共和党大会を取材しての私見が書かれている。
Posted by S.Igarashi at September 11, 2004 09:11 AM | トラックバック