些か旧聞であるが、噂の真相休刊号・斎藤美奈子のコラム「性差万別」最終回は石原慎太郎を俎上に載せた。
「文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものはババァなんだそうだ。女性が生殖機能を失っても生きているってのは無駄で罪ですって。男は80、90歳でも生殖能力があるけれど、女は閉経してしまったら子供を産む能力はない。そんな人間が、きんさん、ぎんさんの歳まで生きているのは、地球にとって非常に悪しき弊害だって」この「週刊女性」2001年11月6日号のインタビュー記事について、更に
知事は東大の松井孝典教授から聞いた話だと断っている。松井氏が言ったとされる「おばあさん仮設」とは生殖を終えたメス(おばあさん)が人類の人口増加と発展に寄与したというもの。それを右のようなババァ地球撲滅説まで発展させたのが石原氏なのか松井氏なのか判然としないものの、どちらにしてもこの発言が自治体の長にふさわしくないのはいうまでもない。」件の「ババァ発言」が問題とされたとき新聞記事では大学教授の説を引用しただけという知事の釈明だけで、その教授が誰なのかは記されていなかった。また、その教授からの反論なり釈明も聞いたことがなかった。
斎藤美奈子のコラムでその教授が東大の松井孝典氏だと初めて知った。松井孝典氏は2002年12月から翌年1月までのNHK人間講座「宇宙からみる生命と文明・アストロバイオロジーへの招待」の講師を務め、その講座でも「おばあさん仮設」を何回か述べている。その「おばあさん仮設」を聞く限りにおいて、慎太郎の「ババァ発言」とは全くの対極にある言説である。
NHK人間講座「宇宙からみる生命と文明」のテキストによれば、松井孝典氏は農耕牧畜が始まった理由について人間側から考えると一つは「おばあさん仮設」もう一つは言語の獲得による「共同幻想」の共有であると述べている。
"おばあさん"とは、ここでは生殖年齢を過ぎたメスが生き延びている状態を表すことにします。哺乳動物でも、サルでも、類人猿でも、メスは子供が産めなくなると、それから数年くらいで死んでしまいます。一方オスはいつまでも子供を作れる能力がある。したがっておじいさんは存在します。自然の状態では、哺乳動物にも、サルにも、類人猿にもおばあさんは存在しません。どういうわけか現生人類だけ、おばあさんが存在するのです。
おばあさんがいると何が違うか、一つはお産が安全になることです。加えて、娘が産んだ子供の面倒をみたりする。このため、メス一個当たりの出産数が増え、群れの個体数増加につながるわけです。人口増加です。人口増加が起こると、或る地域で生きる人の数は決まってますから、地域を移動するという圧力になり、新天地へ散っていきます。このため、現生人類は「出アフリカ」と呼ばれる行動をとるわけです。十数万年前アフリカに誕生した現生人類が、人口増加にともなって世界中に散らばる。これが、我々が何故人間圏をつくって生きるようになったか、一つの理由です。
以前、息子・良純がオヤジの亭主関白ぶりを語っていた。
「オヤジはオフクロに、毎朝、御飯とウドンとパンを食卓に用意させておき、その日の気分で何れかを食す。」らしい。
この「ババア発言」のことは、全く知りませんでした。ぼくの母などは、慎太郎が結構いいと思っているのです。しかし、これを見せたらさすがに嫌いになるでしょう。
昨年、ある人が「石原慎太郎を支持しているような層の人たちを、本人は大嫌いにちがいない」といっていました。「ババア発言」は、全くその通りですね。ぼくも彼の意見に賛同してこういいました。
「ヒトの気持ちなどということに対して、全く想像力が欠けているんですよ。歯切れのいいような発言をしたり、思い切りのいい決断をするように見えるのは、それによって傷ついたり切り捨てられたりする人がいることを想像できないからなんだ。だから、ああいう人物を頼りがいがあるなどと思いこんで、首相にしたりしたら、とんでもないことになってしまう」