October 09, 2003

ケアレスミス

先日のJR中央線高架工事に伴う仮設線路の切り替え工事で起きた信号機の配線ミスは図面チェックのケアレスミスによって起こされた。それも工事直前に図面のミスに気づいたにも関わらず、情報が工事関係者全員に周知されず、図面が訂正されないまま工事が行われるという二重のミスを犯している。
最近になって頓に増えているこうした事故は設計の効率優先による図面のCAD化と果たして無縁と云えるのだろうか。
昔の工事現場では現場常駐の監督が自らトランシットやレベルで墨出しを行い、その上、施工図も描いていた。次第に施工図はゼネコンやサブコン内部の施工図専門設計技術者の手に委ねられ、それもいつの間にか派遣会社から出向の技術者に取って代わられ、施工図がCAD化された今日では東アジアの国々に外注される場合も少なくないという。20年前くらい一級建築士受験講座・設計製図の講師をしていたことがあった。そのとき、試しに矩計図(かなばかりず)を描かせたことがあったが、図面の上手下手を抜きにして満足に防水納まりや建具廻りの納まりを描ける者が殆どいなかった。受講者の大半が建設会社の現場監督なのにこの体たらくである。「施工図のチェックはできるけどねぇ、描くのはちょっとねぇ、、」そんな言い訳も現場監督の仕事が算盤勘定と手配師に費やされる故であろう。

VectorWorks10ではじめるCAD:後書きより 「そこは下書き線をトレースするように」私の言葉に学生が意味も解らずキョトンとしていた。学生は「トレース」の意味を知らなかったのである。当然、知っている言葉だと思っていただけに我ながら唖然とした。そう云えば、昭和の時代まで大衆雑誌や新聞の通信教育の広告に必ず「トレース」とか「トレーサー」と言う文字があった。憶えるでもなく誰もが知っているような言葉だったが、既に死語と化したのだろう。それに代わり、最近の新聞や雑誌の通信教育には「CAD技術者養成」の文字が目立つようになってきた。その隣の高収入うんぬんの文字に首を傾げたくなるが、CADがトレーサーと云う職能を駆逐したことは確かだろう。それはDTPが写植技術者の職場を奪ったのに似ている。この10年の間に設計環境はコペルニクス的変動に晒され、手描による製図は少数派となりつつある。 最近になって、図面上の初歩的ミスが事故の要因となった例が後を絶たない。テーマパークで起きた配管接続ミスの事故など、極めて単純な設計上のケアレスミスにその原因があるという。国産ロケット「H2A」2号機と高速再突入飛行実験衛星「DASH」の事故も設計図から製造用図面へのコピーミスによって電気系統に配線ミスが生じた結果だという。これらの事故の要因になった図面がCADによるものであったと云う報道はされていないが、しかし、こうした単純ミスは工程毎のチェックが厳しかった手描製図の時代は考えられなかった。電子無脳状態のCAD化された環境でこそ起こりうるミスと考えられる。CADへの転換が我々に齎した恩恵と共に失ったものが何か考えることが、いま求められている。
Posted by S.Igarashi at October 9, 2003 06:59 PM | トラックバック
コメント

JRは下請け会社に責任をなすりつけ、国土交通省はJRに責任をなすりつけ、タカ派・小泉純一郎は日和見・菅直人の地盤を崩すチャンスとばかり仮設歩道橋の設置を公約。事業主体の主である筈の都知事はダンマリを決めている。なにがなんやら。

Posted by: S.Igarashi at October 23, 2003 10:31 AM