July 29, 2013

知の逆転

知の逆転 (NHK出版新書 395)
NHK-ETVで7月12日と19日の二回に亘って放送された「世界の叡智(えいち)6人が語る 未来への提言」の底本となったインタビュー集である。何故かNHKのサイトから番組情報にはアクセス出来ず、Googleからアクセスできるが、再放送の予定もなく、オンデマンドにもアップされてない。かろうじて残っている番組情報も放送終了後一月で消去されることから、現在の処、このNHK出版新書がインタビュー内容を知る唯一の情報源となる。
本書で紹介されている6人の中で著作物を読んだ事があるのはチョムスキーとミンスキーだけ、映画『レナードの朝』は見ていたが原作者のオリバー・サックスについては知らなかった。同様にアカマイの共同設立者の名前も初耳、DNA二重らせん構造の発見者にノーベル賞を与えられているのは知ってるが、その受賞者の名前までは記憶してない。周辺情報もなく初めて、その名前を知ったのがジャレド・ダイアモンド。彼の言う処の「文明が崩壊する5つの要素」は今日の日本国に全て当てはまるのだが、彼が核抑止力と原発を容認している処は解せない。彼にに較べるとチョムスキーはブレてない、私が疑念を抱いている世界情勢等を実に明晰に分析している。ETVの放送から一週間後の7月25日のGoogleのトップ画面を飾ったロザリンド・フランクリンを『彼女はノーベル賞に値しない。』と切り捨てるジェームス・ワトソンの「個人を尊重する」は名誉と利益を独占する勝者に対しての意味であり協力者の存在は無視すべきものであるらしく、米国が目論むヒトゲノムの知的所有権の支配独占と一致する考えだ。ワトソンは人種差別的な発言で問題を起こすこともあるようで....なんだか。
奥付のコピーライトにはインタビュアーと編者の他に5名の名前が記されているが、ノーム・チョムスキーだけは別に奥付の前頁にコピーライトが記されている。それだけ自分の発言が正しく伝えられているかチェックしているのだろう。

第1章:文明の崩壊 ジャレド・ダイアモンド
・『銃・病原菌・鉄』から『文明の崩壊』へ
・第三のチンパンジー
・セックスはなぜ楽しいか?
・宗教について、人生の意味について
・教育の将来

第2章:帝国主義の終り ノーム・チョムスキー
・資本主義の将来は?
・権力とプロパガンダ
・インターネットは新しい民主主義を生み出すか
・科学は宗教に代わりうるか
・理想的な教育とは?
・言語が先か音楽が先か

第3章:柔らかな脳 オリバー・サックス
・なぜ『個人物語』が重要なのか
・音楽の力
・人間に特有の能力について
・生れか育ちか?遺伝子か教育か?
・宗教と幻覚の関係
・インターネットが脳に与える影響

第4章:なぜ福島にロボットを送れなかったか マービン・ミンスキー
・人工知能分野の『失われた30年』
・社会は集合知能へと向かうのか
・『エモーション・マシン』としての人間

第5章:サイバー戦線異状あり トム・レイトン
・インターネット社会のインフラを支える会社
・サイバーワールドの光と影
・アカマイ設立秘話
・大学の研究と産業の新たな関係
・教育は将来、どう変わってゆくのか

第6章:人間はロジックより感情に支配される ジェームス・ワトソン
・科学研究の将来
・個人を尊重するということについて
・真実を求めて
・教育の基本は『事実に基づいて考える』ということ
・二重らせん物語
・尊厳死について

参考---------------------------------------------------------------------------------------
松岡正剛の千夜千冊・ジャレド・ダイアモンド:銃・病原菌・鉄
ほぼ日刊イトイ新聞対談:ジャレド・ダイアモンド×糸井重里
松岡正剛の千夜千冊・ノーム・チョムスキー:アメリカの「人道的」軍事主義
松岡正剛の千夜千冊・オリヴァー・サックス:タングステンおじさん
TED・オリバー・サックス: 幻覚が解き明かす人間のマインド(日本語字幕付)
松岡正剛の千夜千冊・マーヴィン・ミンスキー:心の社会

Posted by S.Igarashi at July 29, 2013 09:55 AM
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