Comment: 水の透視画法

「テクノロジーはまだまだ発展し、言語と思想はどんどん幼稚になってゆくであろう」という一節を特に興味深く思います。もしそれが、「テクノロジーの発展」が「言語と思想の衰退」と不可分に結びついていると言おうとしているのなら、私はそのペシミスト的現状認識に共感し同意します。この場合それはベンヤミンの最晩年の著作や(「言語と思想」を「建築」または「都市」におきかえれば)埼玉会館の時期以降の前川國男の発言(たとえば「環境の醜悪化の元凶は、技術文明それ自身のうちにひそむといえましょう。実証的な科学精神の昂揚は、その反面に人間の直感的な感受性を恐ろしいほど低下させます」『泥足の達人』)に近いと考えられるからです。しかし逆に「テクノロジーのめざましい発展にもかかわらず、言語と思想はそれに見合った水準に達していないのが問題だ」という意味なら、それは「生産諸力の発展と旧態依然の生産諸関係のあいだの矛盾」が必然的に歴史を進めると信じる楽観的で素朴な単線的進歩主義史観に似ていることになり、ベンヤミンが『歴史哲学テーゼ』のなかで示唆したように、1930年代の大恐慌のさなかのナチズムの台頭を前に無力であったばかりか有害でさえあった「進歩信仰」です。私は辺見氏のことは良く知りませんが、「テクノロジーの発展」と「言語と思想の衰退」のあいだに矛盾というよりはむしろ緊密な連関を見出しているように思えます。

Posted by Tosi at September 11, 2011 11:06 AM